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陶院叢書

崔曙海作品集 脱出記

注文する書籍の紹介鳥生賢二 訳
 金君!そうこうするうちに、冬は次第に深まり、飢えと寒さがじわじわと迫ってきた。働き口は無く・・・そうかといって手を拱いて座っているわけにはいかなかった。一家そろって青い顔で腹を空かして坐っているざまは、見るに堪えなかった。研ぎ澄ました刃物でも握りしめて、一日でも早く苦しい生を免れるように家族をぶすりと刺し殺して、自分もこの世から消えるか、さもなければ、その刃物を持って飛びだし、強盗でもして飢えと寒さを免れるか、そうでもしなければ仕方がないほど切迫していた。仕事がなければないだけ、苦痛が迫れば迫るだけ僕の悩みは深刻になった。ある日、魂が抜けた人間のように、じっと目を閉じて、深い思いに沈んだことがあった。
 この時、僕の脳裏に徐々に頭をもたげてくる思想があった。(今になって考えてみれば、それは僕の全運命を決定づける思想だった)その思想は誰かの教えによるものではなく、殊更にこんな考えを持とうとしたのでもない。春の草の芽のように、じわじわ頭をもたげたものだった。
 僕は今まで世の中に対して忠実だった。どこまでも忠実であろうとした。僕の母、僕の妻までも・・・骨が砕け、肉が裂けても忠実に生きようと努力した。しかし、世の中は僕たちを欺いた。僕たちの誠意を受け付けなかった。むしろ忠実な僕たちを侮辱し、蔑視し、虐待した。僕たちは今まで欺かれたまま生きてきた。暴虐で偽りに満ちた邪悪な群れを容認し養護する世の中だということを全く知らなかった。僕たちだけでなく、世の中のすべての人々も、そのことに気づかなかったのだ。彼らはそんな世の中の雰囲気に酔っていた。僕も今まで酔っていた。僕たちは、自分のために生きてきたのではなく、ある険悪な制度の犠牲者として生きてきたのだ。
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