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一般書

翰苑(かんえん)2018.3vol.9

注文する書籍の紹介姫路大学 人文学・人権教育研究所 著
生産のための労働ということが社会の中核ということであれば、幼児はその枠からはみでた存在である。つまり一人前ではないのである。一定の共同体のなかで、人口が過剰になれば、嬰児などは間引きの対象となる。嬰児、幼児は人権無視の世界に置かれた。
 しかし、一方で聖なる幼児、貴なる幼児という思想も浮上し、大人では手の届かない、あるいは許されない領域に、容易に入ってゆくことができるという特権をもつにいたる。神がそれを許してくれる。大人の眼には映らぬ世界で、固有の世界を持つにいたるのである。
 ムラ社会の維持のための基本的ルールは、経験知によるところが大きい。長期にわたりそのムラで生存していることが、尊敬の対象となり、リーダーの資格となる。これを長老主義と呼んでもよかろう。
 しかし、この長老が幼児の声にひたすら耳を傾け、深々と頭を下げる場合がある。祭神の子としての幼児が長老の上に立つのである。
 柳田国男が「妖怪談義」のなかで次のようなことを
のべている。
 
「生きた人間の中では、老人が最も賢明にして且指導好きであることは、殊に我々の明治大正に於る経験であるが、奇なる哉神様には、若い形が多い。少なくとも童子に由って神意を伝へたまふことが多い。ザシキワラシもその現象の一つの場合ではあるまいか。未開時代の人の考えでは、教育や修養に因って人柄が改良するなどとは思はぬから、所謂若葉の魂の、成るべく煤けたり皺になったりせぬ新しいものを、特に珍重して利用したのではあるまいか。」
(『定本柳田国男集』第四巻、筑摩書房、昭和三十八年)
 
 神霊が付着している幼児が異常な力を発揮する例は多くあるが、中世における牛飼童子もその一例である。これは牛車を引っぱる獰猛な牛を自由に支配することのできる子どものことである。たとえその役を大人が引き受けたとしても、その大人も髪型は童子のものであった。大人であっても髪型をそうすることによって幼児としての神的力を発揮してもらいたかったのである。神霊が宿る童子の威力をもってすれば、いかなる牛も静かになるというのである。
 網野善彦は、牛飼とその童形についてこうのべてい
る。
 
「なぜ牛飼は童形でなくてはならなかったのか。これはたやすく解決し難い問題であるが、いま一、この思いつきをのべれば、当時の牛車を引いた牛が、今日われわれが馬にくらべて穏やかな動物と考えているのとは違い、獰猛で巨大な動物とみられていたと推定される点は、恐らくこのことと無関係ではあるまい。…(略)… こうした獰猛な動物を統御する上で、童の持つ呪的力が期待されたとも考えられるのではなかろうか。」(『異形の王権』平凡社、昭
和五十五年)
 幼児は遊びのなかに、生きることの中心を置く。遊びに没頭することによって、大人では理解不能な世界の創造をやってのける。
 幼児が大人の労働力にかかわらないように、山男も生産活動には従事しない。そもそも生産活動というものに価値を認めていないのである。もちろん山男も生きんがために、獲物を探し、それを食す。しかし、それは生産活動と呼べるようなものではなく、空腹を満たし、生存を可能にする必要最小限度の活動である。
 近代の人間社会においては、この生産労働行為が文明の軸となる、山男はその文明の対極に存在し、対峙するかたちを常に維持している。
 生産活動に絶対的価値を認めようとする人たちは、競争社会を善と称し、他人を蹴落しながら、わが世の春を満喫している。そういう文明に山男は耐えられない。
 山男は遊びが好きだ、好きというより、それのみが山男の全生活といってもいい。文明社会の側からみれば、遊びなどというものは、余暇と同様、反道徳的、反倫理的な行為であり、「正常」な人間の行為とはみなされない。
 多田道太郎は、文明と遊びについて次のようにのべている。
 
「思うに文明とは、遊び気分に対したえざる拮抗関係にある。文明は混沌末分の状態に『目鼻をつける』ところに自分の使命を見出す。自分と他人を区別し、さらに、モノとモノとの間を区別する、遊び気分はもともとこうした区別の論理を知らない。」(『遊びと日本人』角川書店、昭和五十五年)
 遊びと生きるということが渾然一体となっている山男は、生産力向上が唯一の価値になっている社会ではきわめて生きづらい。
 山男は平地人からみれば異界と呼べる山中を住処とし、そこで生命をあらんかぎり発散させて生きている。それは遊戯の世界であり、欣喜の世界である。

「宮沢賢治と縄文の風(一)山男は幼児性を豊かにもっている。これは無垢と聖性につながる」綱澤満昭より
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