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アマゾンへ じっちゃんと
鳥居真知子
1,400円+税
一般書 児童書 / A5 並製 / 130頁 / 2022/10/20 初版
ISBN978-4-87616-066-2
この物語はフィクションですが、作者の息子が大学時代に何度も旅をしたアマゾンでの実際のメモや写真が執筆の基となっていて、アマゾンでの体験がとてもリアルに生き生きと描かれています。
アマゾンの旅先からの手紙が日本にいる祖父(じっちゃん)に届き、手紙を受け取るじっちゃんもまたアマゾンに移り住んだ幼なじみに思いを馳せながら、アマゾンの地図(巻頭に掲載)に印を付けていく。そうして、孫と一緒に旅をしているような気持になっていきます。
文中にはアマゾンの写真や生き物のイラストなどをふんだんに配し、子どもも大人も楽しめるようになっています。
2023.10.19
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僕は、またジャングルの三時間の行程でクタクタになって、家の前で座り込んで水を飲んでいました。その時、家の中からママンが飛び出してきて、
「娘の命の恩人……。
ありがとう、ありがとう」
と、僕の手をとって何度も礼を言うのです。サラの熱が下がって、容態が良くなってきたのです。僕も嬉(うれ)しくて嬉しくて、すぐに家の中に入りました。サラは、まだ部屋の隅で寝かされていましたが、僕の顔を見ると、あの可愛い瞳でニッコリと笑いました。僕は、サラの手を取って、本当に良かったと思いました。
翌日の朝、ヒキティーの休暇(きゅうか)が終わるので、僕はリザルド家の人達と別れを告げました。
サラは、もうすっかり熱も下がり元気になりました。僕は、サラに、千代紙なども入った折り紙セットをプレゼントしました。サラは、
「たくさん、たくさんツル作るね」
と、目を輝かせていました。
ママンには、抗生物質などの薬の半分を渡しました。ママンは泣きながら、
「病気で困った村人にも分けます」
と、僕を抱きしめました。その時、僕の口から、
「僕は医者になって、必ずこの村に戻ってくる」
という言葉が、自然にあふれ出てきました。ヒキティーが、驚いた表情で僕を見つめました。その場は、一瞬(いっしゅん)、沈黙(ちんもく)に包まれています。
ヒキティーが、うつむきながらつぶやきました。
「……ずっと……ずっと……この村に医者はいなかった……」
後の言葉は、涙声になっています。
「約束だぞ」
と、顔を上げたヒキティーが、僕の手を力強く握り締(し)めました。
「絶対、絶対待ってる……」
と、サラの手もその上に重なりました。
僕は、それらの手の温もりを感じながら、
「ビンジャド村の医者になる」
と、キッパリと繰り返しました。
じっちゃん、どうか聞いてください。僕は、この無医村のビンジャド村の医者になる事を、心に決めたのです。皆とも約束しました。必ず実現させます。
昔じっちゃんと語り合った夢が、本当になりそうです。じっちゃんが、僕の道を開いてくれたのです。帰国したら父さんや母さんにも話します。その時は、また力になってください。
九月十五日 健一より
(「ジャングルの奥地より」より)