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キラキラ どもる子どものものがたり
堅田利明
1,400円+税
一般書 教育 / A5判 並製 / 144頁 / 電子版 / 2019/12/25 初版5刷
ISBN 978-4-87616-001-3 C8093
「どもる」ということがどういうことか、多くの人が『知っている』と思っています。しかし、それが当の子どもにとって、家族にとって、どんな問題なのか、正しく理解できている人はとても少ないのです。
「吃音で悩んでいる子どもやその家族等の助けになるような『本』を作りたい』
そんな著者の想いから一つの物語が生まれました。
中学生になって、精神的に成長していく新一少年とそれを支えるまわりの大人たちの物語。『続編 キラキラどもる子どものものがたり~少年新一の成長期~』も併せてどうぞ。
http://www.kaifusha.co.jp/pub/detail_232.html
2023.10.19
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わずかにお母さんの目が涙目になった。新一は「うん」とうなずいて次の言葉を待った。
「新ちゃんがどもりはじめたときね、すごく心配したわけじゃなかったの。三才ぐらいの子どもにはよくあることなのよ。だからね、ほおっておいたらそのうち治るよねって。たしかに治ったようにすらすら話せたときもあったの。でもね、しばらくするとまたどもりはじめるの。その度に、どうしてなんだろうか、保育所で何かあったんじゃないかって、ずいぶん考えたの。園の先生に何度も聞いてみたんだけどよくわからなかった。やっぱりお母さんが忙しくしているからとか、新ちゃんのお話しちゃんと聞いてあげられてないからだとか、『早く』とか『急いで』ってよく言ってたでしょ、それがよくなかったのかなって。いろいろ考えて、あれもこれもよくないんじゃないかって思うようになったの。お父さんは、ほおっておいたらそのうちよくなるからって言ってね。お母さんが気にすることないって。でも気になってしまうの。その度に、気にしてはダメだって自分に言い聞かせてね。でもやっぱり気になってしまうの。そのうちどんどんしんどくなっちゃってね。もう、どうしていいかわからなくなったの」
お母さんの目が涙でいっぱいになった。新一はそれを見まいと下をむいた。
「年中さんのときの清水先生にも相談したし、園長先生でしょ、それから、かぜのときによく診てもらった谷先生や、保健所の先生、いろんな人に相談したの。でもね、皆、気にしない方がいいって言うの。そのうち治るからって。叱らない方がいいとか、ゆっくり話してあげなさいって言う先生もいたの。お母さんはその通りがんばったの。でもね、やっぱり治らなかった。そうこうしているうちに、今度は新ちゃんの話し方が変わってきたのね。力をいれて話すようになったの。『アアアあのね』みたいにね」
「あっ、それあるある。たまになるよ僕」
「そうね、そんなふうになったのも全部お母さんのせいなんだろうって。心配しすぎで、新ちゃんのいいお母さんになれないからだって。お母さん失格だなって。そのときやね、仕事をやめようって決心したの」
涙がポタッと一つじゅうたんの上に落ちた。お母さんの声はふるえていた。新一の心もふるえていた。
「きっぱり仕事をやめて、いままでできなかったことをいっぱいしようって思ったの」
ひょっとするとお母さんは、もっと仕事を続けたかったのかなと思ったが、口にするのはやめた。
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「六 お母さんにインタビュー」より