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いのちの輪舞
白い船ホーム 介護の現場から
堀雅子 著
「ゼロの老い人たち」
「次は……何やるのかな」
と、聞こえ、独り言のようでもあったので反応の早い私も黙っていた。すると、その老い人が、「今は……人間やってるけどね」
と、今度は明瞭に言葉が伝わってきた。
行事かクラブの参加への問いかけかと思って耳を傾けた私は、しばらくその突飛な問いに対応しかね、そっと老い人の顔を見た。少女のようなあどけないくらいの撫薰ノは笑みがただよい、天井を見ながらの独り言ながら、私が隣りの老い人のベッドに立っていることが意識にあるようだった。
九藷?ホの野立たいさんは、小学校の教師を務め、後に開業医の後妻となり、自分には子どもが産まれず、病死した先妻の子どもたちを育てた人。が豊富で、年一回刊行のホーム誌に随筆を依頼しても、澄んだたおやかな文体で味のある原稿を下さる人。一九九〇年藷?誌奄゚に入所された当時は病院の介護の都合上かオムツ者であった。一九九四年の現在、私たちは、オムツを夜間のみとし、昼間は自力でポータブル便器に排泄が可狽ネまでに処遇改善した。人は自己の排泄行為が制御できなくなると、自己から逃げようと意識が働くのか、確かに痴呆症状が進行するようである。逆に言うと、オムツ外しに成功した野立さんは、日常の殆どを寝たきりながらも、精神がしっかりしてきたのだった。
夜間の眠りによる尿もらしの蘭hと、安眠のためのオムツ着用も、ぬれた時の気分が悪いためか、早朝五時の初回のオムツ交換時まで待てずに自分で外して、パンツ式(尿もれ防止のうすゴム布製パンツ型)に代えて、お尻の清拭だけを待つようになったたいさんだ。
今は人間をやっているけれども、次は何をやるのかな、と独り言した野立さんの脳裏に私はすばやく入りこんでみた。つまり楓ハでは、言葉にして応えられなかった。
「犬かもね。虫か、ゴキブリかもよ」と冗談にし難かった。野立さんの脳裏はもっと深く不思議な展開を楽しんでいたかも知れなかったからだ。
ホームの重介護者が二階に七居室。比較的元気で、日常の生活動作(衣服の着脱、洗面、歩行、排泄などの行為の判定方法の一つ)が自力で可狽ネ老い人たちは、三階の七居室に暮らしている。しかし、近年は、重介護者増で、だんだんと三階の居室まで占められつつある現状だ。
八渚ホ以上の老い人が、五署l満床中、四処齔lで、七書繧ェ九人生活しておられる。高齢者が増えて、日常の寝たきり者が目立つようになってきた。
居室は病院の病室のように寝たきり姿の老い人がいっぱい。それら一様に見える老い人がたをながめて見れば、決して一様ではなかった。
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