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一般書

こころの風景

注文する書籍の紹介山折哲雄(文)太田順一(写真) 著
「あとがき」にかえて
 もう三十年近くも前になりますが、雑誌の仕事で山折哲雄さんを撮影したことがあります。『アエラ』(朝日新聞社)の人物ノンフィクションページの取材でした。講演をおこなった京都府亀岡市の市民ホールや比叡山延暦寺、それに当時勤めていた国際日本文化研究センターの研究室など、いろんな場所で五日ほどカメラを向け続けました。
 誌面には使わずじまいとなったのですが、早朝、自宅にお邪魔して座禅を組んでいるところも撮らせていただきました。日課になっていたようで、線香を前に立てて煙をくゆらせ、燃え尽きるまでの小一時間、瞑想にふけるのです。
 静寂を乱さないよう細心の注意を払って数回だけシャッターを切り、あとは身じろぎもせずに時間が過ぎるのをじっと待ちました。やがて線香の煙が消えて山折さんは姿勢を崩すと、意外なことを口にして破顔大笑するのです。―浮かんでくるのは仕事のことやら食べ物のことやら雑念、妄想ばかり。無念無想というわけにはいきませんなあ。ハッハハ。
 宗教学の泰斗がにわかに身近な人に感じられ、親しみをおぼえた瞬間です。

 山折先生のエッセイと写真でコラボをしませんか―海風社の作井文子さんから声がかかり、思いがけなくも長い歳月をへて再び山折さんにまみえることができました。作井さんには感謝、感謝です。
 が、正直に言うと、二つ返事で引き受けたのではなく尻込みするところがあったのです。コラボというけれど、九十歳を超えてなお山折さんは旺盛に執筆をなさっている、そこから紡ぎ出される言葉に私の写真が敵(かな)うはずがないではないか、と。
 五十余編のエッセイそれぞれと組み合わせる写真を選ぶ際、一体化するのではなく離れて、あるいはずらして、場合によっては写真が異物となるよう仕向けました。あれこれ考えゲリラ戦法で臨んだわけです。

 山折さんに初めてお目にかかったとき四十代だった私も七十代になりました。まごうことなき老人です。山折さんによれば、老人は神に最も近い位置にいるとのことですが、自分に限って言えば、とんでもない、聖性からは程遠い体たらくです。老いて地金が現れたとでもいうのか、俗物の度合いは若いころよりむしろ強まっているのを自覚します。
 そんな私を捉えて離さない一文が本書にありました。弟子は一人も持たないと明言した親鸞の孤高に触れつつ、山折さんはこう記すのです。

 そこにはもはや迷うことのない人間の、静かな「ひとり」が立っている。
                       (一七七頁「ひとり」酒)

 静かに立つ「ひとり」―その万分の一にでも私もなることができたなら……。

                    太田 順一
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