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南島叢書

都会(まち)に吹く南風(はえ)

注文する書籍の紹介盛岡茂美 著
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「気張れよ。」
「シマンチュ(島人)の根性見せれよ。」
「内地ムンに負けるなよ。」
「テルカズー。カズエはイャ(お前)のこと好きだったちよ。」
送る者も送られる者も雰囲気に飲まれた。俊一は一週間程前に、先発の受験組を見送りに来たとき、船の上でやたらにはしゃいでいる者たちの浅ましさを見ていたので自分の時にはそういう喧騒とは縁を絶とうと決めていた。ドラの音、孤独・・・男の旅立ちにはこれで十分だ。いや、ついでに夜霧があればもっといいのだが。コートの襟を立てて船尾に向かおうとした俊一を港から太い女の声が捕まえた。
「シュンイチー。どこへ行くの?」
俊一を見送りにきた母だ。岸壁の母だ。
「せっかく見送りに来たんだからそこでいい格好しとらんば。」
見送りの女たちというのは、母と二人の伯母たちだった。でっぷりと太った三人の年増女がさっきまで台所に立っていたような割烹着姿で港の中央に陣取っている。
「俊一。内地に行ったらいいウナグ(女)ひっかけてこいよ。」
母の一番上の姉のマツおばさんが大声で言い、港に笑いの渦が起きた。
「俊一。おばみたいないいウナグじゃないとだめだよ。」
二番目のタケおばさんの大声が甲板に投げ込まれて笑いがもう一輪広がる。俊一の家系は完ぺきな女系家族で、俊一はいとこたちの中ではただ一人の男の子だった。この女系家族は男運に恵まれず、マツおばさんもタケおばさんも俊一の母も(当然、名前はウメということになるが)そろって亭主に早くして死なれたのだった。生来の気質の上に、暮らしの中で父親の役割を果たしたこともあって、松竹梅はそろって剛毅溢れる三姉妹となった。一族の中でただ一人の男子であり最年少でもある俊一は、一族の中で大学というものを受ける最初の人間になった。といっても俊一がよくできたからではなく、ただ俊一の通う大島高校の雰囲気が進学指向だったからにすぎない。大島高校は、奄美大島の各離島地区からの精鋭が集う伝統校だった。(すくなくとも在校生はそう信じていた。)クラスの大半の者が大学進学を目指していた。
 生まれて初めての試練に敢然と立ち向かおうとしている男のロマンを恥知らずな女たちに打ち砕かれて、仕方なく俊一はそのまま甲板の手すりにもたれていた。しかし、俊一の胸中には万感迫るものがあった。まだ見ぬ東京での生活への限りない期待と不安。日本列島の南の果てで海に密閉されたこの島が世界のすべてだった俊一にとってみれば東京は自分の小さな地球儀を打ち砕いてくれるハンマーのような気がした。一生をこの小さな島で終わらせると考えただけで俊一の胃は痛んだ。海の向こうには自分の人生の本流がある。一刻も早くその本流にこの身を浸したい・・・・・。
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